緑頭巾ちゃん
「緑頭巾ちゃん」 (1914年) は、フランスの劇作家、ピエール・カミによって書かれた戯曲です。
全文を掲載しておりますので、ワークショップや養成所の演技教本、お子さま向けの公演題材などに、ぜひご活用ください。
第一場 悲劇的な偶然 家の中
緑頭巾の父 
僕たちが住んでいるのは、狼に食べられちゃった あの有名な赤ずきんちゃんが以前住んでた家なんだってさ。
緑頭巾の母
不思議な偶然よね。私たちの可愛い娘も緑の頭巾を そりゃあ優雅にかぶってるんで、どこへ行っても緑頭巾ちゃんって呼ばれるんだもんね。
奇妙な偶然はそれだけじゃないぞ。僕らの娘のオバアチャンってのが、これまた赤ずきんちゃんと同じように ちょうど隣の村に住んでて、そこに行くには近くの森を通らなきゃならないときている。
その上、赤ずきんちゃんとオバアチャンを食べたんで有名な狼が、いまだに そこの森をうろついているって言うじゃないの。
そういうこと。こんなに偶然が重なっているんだから、これは厄介だよ。
さらに厄介なことには、あたし、たった今ケーキを焼いちゃったし・・・・。
(青ざめて) ケーキだって!大変だ!ああ、次には何が起こることやら。君、僕らの緑頭巾ちゃんに そのケーキを持たせて、オバアチャンとこへ使いにやろうってんじゃないだろうね。
そのつもりよ。ケーキと小さなバターの壺を持たせてね。
小さなバターの壺だって!とんでもないよ。なんて奇妙で悲劇的な偶然なんだ。でも、ちょっと静かに。緑頭巾ちゃんが学校から帰ってきたようだから。
(緑頭巾に) オバアチャンの具合がどうだか見てきてちょうだい。このケーキと小さなバターの壺をもって行ってね。
緑頭巾
(うれしそうに) まあ、本当に赤ずきんちゃんみたいね!
(心配そうに) 赤ずきんちゃんみたいよね。本当にそうよね。ああ、なんだか胸騒ぎがするわ。この子を行かせてもいいものかしら。
緑頭巾
心配しないで、お父さん、お母さん。緑頭巾ちゃんは赤ずきんちゃんよりずっと頭がいいのよ。もしオバアチャンのベッドに狼がいたとしても、あたし、食べられたりしないから。いい考えがあるの。(出かける)

第二場 緑頭巾ちゃんの策略 オバアチャンの家

以前に赤ずきんちゃんを食べた狼
(ベッドに寝ている) あの緑頭巾ちゃんがオバアチャンちに出かけるところをオレは見ちまった。で、赤ずきんちゃんのときとそっくり同じことをしてるわけさ。オバアチャンちに先について、ばあさんをさっさと食っちまって、その代わりにこうやってベッドに寝てる。そのうちに緑頭巾ちゃんがやってきてドアを叩くのを待ってるのさ。
緑頭巾
(ドアを叩いて) オバアチャン、孫の緑頭巾よ。ケーキと小さなバターの壺を持ってきたわ。
(作り声で) かんぬきをお引き。桟がはずれるから。(緑頭巾ちゃんが入ってくる) ケーキとバターの壺は櫃(ひつ)の中に入れて、ここへ来てオバアチャンとお休み。
緑頭巾
(横を向いて) あれまあ、狼だわ!赤ずきんちゃんをベッドへ誘い込もうとしたときと同じセリフだもの。あのいやらしい嫌なヤツのおなかで、今オバアチャンは消化されているんだわ。でも、あたしは食べられたりしない。おかげさまでいい考えがあるんだもの。
さあさ、ここへ来て横にならないのかい、いい子や?
緑頭巾
(狼の隣に横になって) さあ、来たわよ。あれ、オバアチャン、なんて大きな腕なの。
おまえをしっかり抱けるようにね。
緑頭巾
オバアチャン、なんて大きな脚なの。
速く走れるようにね。
緑頭巾
オバアチャン、なんて大きな耳なの。
おまえの声がよく聞こえるようにね。
緑頭巾
オバアチャン、なんて大きな目なの。
おまえの姿がよく見えるようにね。(横を向いて) さあ、いよいよだぞ!
緑頭巾
オバアチャン、なんて大きな腕なの。
(どぎまぎして) だってお前、それはさっきもう言ったよ。
緑頭巾
(かまわずに) オバアチャン、なんて大きな脚なの。
おまえ、さっきから同じことばかり言ってるよ。ほらさ、ほかにももっと言うことがあるだろう?たとえば・・・(ほのめかすように) オバアチャン、なんて大きなク・・・。
緑頭巾
・・・耳!
そうじゃあなくって、なんて大きな・・・なんて大きな・・・(必死になって) ほら、クで始まる・・・。
緑頭巾
・・・脚!
(ベッドから飛び降りて) ええいっ、チクショウ! 緑頭巾のやつ、オレをからかってやがる。ずる賢い娘め、どうしても 「オバアチャン、なんて大きな口なの」 とは言わないつもりだな。となりゃ、オレの方でも 「おまえを上手に食べられるようにね」 とは答えられない。飛びかかれもしない。(がっかりしたため息をついて) ああ、あの古き良き時代の、無邪気だった子供らはいったいどこへ行っちまったんだ!(怒りながら退場)
【参考文献】
赤頭巾ちゃんは森を抜けて ― 社会文化学からみた再話の変遷  阿吽社
スタニスラフスキー理論・メソッド演技のページへ
独裁者が語る赤頭巾ちゃん
朗読用台本 全文掲載のページへ
赤頭巾ちゃんのロマンス
演劇用台本全文掲載

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