イラストで読む グリムとペローの赤ずきん比較
赤頭巾ちゃんロマンス

この作品の赤頭巾ちゃんは、大人のイメージ。
「グリム童話―メルヘンの深層」(講談社現代新書)によると、「赤ずきん」 教育書 でした。【子どもがそこから教訓を読み取れるものにする】とあります。
グリム兄弟が考えていた「良い子」とは、親の言いつけを守る従順な子供でした。
「わがままな子ども」【グリム童話 KHM117】というメルヘンでは、親の言うことをきかない子に神様が愛想をつかし、(神様が)その子を病気にかからせたため、わがままな子は死んでしまいます。「トゥルーデおばさん」【グリム童話 KHM43】でも、わがままな子は魔法で丸太に変えられ、暖炉の火にくべられて、やはり死んでしまうのです。
一方で、心優しい者は、天が助けてくれ幸せに暮らせます。「灰かぶり」(シンデレラ)「ホレおばさん」など多数。有名な「星の銀貨」【グリム童話 KHM153】は、エーレンベルク稿(初版以前の草稿)では短いメモにしかすぎませんでした。
  • かわいそうな娘
    夕食のパンも、両親も、寝床も、ずきんもない、そして欠点もないが、星がきらめくごとに、娘は地上できれいな金貨を見つけた云々、という貧しい少女の話。(エーレンベルク稿8番)
それが初版グリム童話では、ちゃんとした物語になっています。(草稿の筆跡はグリム兄弟の兄、ヤーコブ。またエーレンベルク稿では銀貨ではなく金貨になっています)「星の銀貨」はほとんどグリム兄弟の創作といってもいいでしょう。
では、なぜ?
「ねむり姫の謎」(講談社現代新書)によると、グリム兄弟は熱心なキリスト教 カルヴァン派でした。現世の日常生活において、禁欲主義を標榜し、勤勉に労働すべしというカルヴァン派の理念が、グリム童話編纂の根底にあったのかもしれません。
グリム童話全体についていえば、ヴィルヘルム・グリム(弟)は、メルヘンが本来もっていた(ヨーロッパの)異教的な要素をできるだけ払しょくし、そこにキリスト教信仰を盛り込んだのでしょう。
「グリムにおける魔女とユダヤ人」(鳥影社)によると、グリムがメルヘン集を出版した時代は、子どもの教育が明確に意識され始めた頃でした。18世紀末から19世紀初頭にかけて産業革命が急速に進み、それに伴って家族構造も変化し、市民的小家族が現れます。市民的小家族は、その知識欲求と経済力とによって、子どもの教育に強い関心を持っていました。
グリムのメルヘン集は主にこうした市民の家庭で購入されたのです。それゆえ、購入者である市民層の意向を無視するわけにはいきませんでした。
グリムのメルヘン集の初版が出版された後、話の選択、話の調子が子供向きではないという批判が起こりました。ヤーコプ・グリム(兄)は、メルヘンの学問的性格を保持したい意向を持っていましたが、世間は子どもに読み聞かせる、親の言うことを聞く子は幸せに、そうじゃない子は…という本を望んだのです。その結果なのかグリム童話は、第二版の序文にあるように「子どもにふさわしくない表現を慎重に削除」していくことになるのです。
「心やさしく生きましょう」という考えには賛成です。グリム童話が今もなお広く愛されているのは、グリム兄弟がメルヘンに盛り込んだメッセージが現代にもあてはまるからでしょう。
しかし、「親の言いつけを守らない子には死を」 という考えは、どうでしょうか。
この、「赤頭巾ちゃんのロマンス」には、【自分らしく生きようよ】というメッセージが込められています。

19世紀のフランスで最も人気のあった小説家の一人、アルフォンス・ドーデの作品です。
全文掲載させていただきます。
赤頭巾ちゃんのロマンス
(1862年) アルフォンス・ドーデ
森の十字路。花と小鳥と蝶々。赤頭巾は彼女の家に伝わる伝統の服を着ている。ケーキとバターの壺も忘れていない。

第一場
赤頭巾
本当にまあ!この世に生きてるだけで幸せに思える日って、本当にあるものなのね。靴には羽が生えたようだし、目にはのろしがあがる。血管には硝石がつまってる――そうよ、草の上をはね回ってだれかの背中に飛びつきたい、ポプラの葉先をひっぱりたい。すごくそんな気になる日って絶対あるけど、きょうはあたし、もう完全にそういう気分。ないしょだけど、そういう日ってよくあるのよ。(スキップして)トラララ、目がまわる!トラララ・・・。
ポロニウス
(登場) おや、おかしな娘がいる。恋に夢中という風情じゃが、あの可愛い顔は以前にどこかで見たような。
赤頭巾
あのおじさん。あたしに一体何の用なのかしら。
ポロニウス
やあやあ、そこの娘さんや、ちょっとこっちに来てくださらんか。少々話がありますのでな。
赤頭巾
いいけど、はやくして下さいね。あたし、急いでるんだから。
ポロニウス
すぐすむ、すぐすむ。
これはまあ、私は間違いなくあんたを知っていますぞ。そのスカートにその刺繍入りのニッカーに、その赤いかぶりものに、そのバスケットに、そのケーキ…。一体全体この赤頭巾ちゃんはどこから来なすった?
赤頭巾
自分の家からよ。そして、おばあちゃんのところにバターの壺を持っていくんですわ。
ポロニウス
これはまた、何ということ!あんた、本当に赤頭巾ちゃんなのかね?本物の赤頭巾?
赤頭巾
そうよ、もちろんですわ。それがどうしてそんなにびっくりすることなのかしら。
ポロニウス
どうしてというのではないが、嬢ちゃんや、惨(むご)いことを思い出させたくはないが、わしが思うに、その、聞いたところによれば、確かいつかの日にあんたは食われちまったと…。
赤頭巾
まあ!
ポロニウス
つまりその、悪い狼に。そいつは変装してて・・・。
赤頭巾
ええ、そうよ。
ポロニウス
そして、あんたがもう少ししっかりしてれば、そういうことはいっさい起こらずにすんだと。
赤頭巾
全くそのとおりだわ。
ポロニウス
しかし、食われたものがこうして元どおりになっているからには…。
赤頭巾
じゃあお話するわね。あたしはこれまでに何度となく食べられたんだけど、それはその度にあたしが悪かったからなの。おわかり?
あたしは四千年もの間、同じ事故に遭い続けて、四千年もの間、生き返り続けているのよ。四千年もの間、信じられない運命のいたずらであたしはどうしても狼の餌食になるように定められているんだわ。わかります?あたしはいつも小さいうちに死ぬので、前世のことはぼんやりとしか思い出せないの。とてもぼんやりとしか…
ねえ、「全世紀にわたる赤頭巾の物語」という本をもし書いたら、面白いと思いません?ペローさんが書いた簡単なのはあるけど、たった一章だけだもの。ほかの章を書ける人って、幸せな人よね。
ポロニウス
そういう奇特な御仁には とんとお目にかからぬがの。
赤頭巾
それでは、先生、もうこれ以上おっしゃりたいことがないのなら、あたしはそろそろ失礼します。
ポロニウス
いやいや、それはいかん。まだまだ言いたいことはいっぱい…私を先生と呼んだということは、ひょっとして、私のことを知っているのかね?
赤頭巾
ポロニウス博士。先生のお名前は世界的に有名ですわ。
ポロニウス
これはこれは、恐れ入りました。それでは、嬢ちゃんや、あんたはおばあさんのところへ行くと言うし、私も同じ方向へ行くからには、ひとつ道連れになりましょう。いかがかな?
赤頭巾
まあ、すてき!きっと楽しいわ。さあ先生、ここから道をはずれましょう。コートの裾をからげた方がいいわよ。もっと楽に飛んだり走ったりできるから。出発進行!ついて来てね。
ポロニウス
これこれ、お待ち。どこへ行くのかね、嬢ちゃんや。そっちはおばあさんの家へ行く道ではない。真ん中の道を行けば一直線じゃろうに。
赤頭巾
いやねえ、真ん中の道ですって?ほこりだらけで日陰もない、おまけに馬車がしょっちゅう通るのよ。真ん中の道を行くんですって?あたしはごめんこうむるわ。
ポロニウス
馬鹿を言うのではない。一度でいいからよおく考えてごらん。【注1】確かに真ん中の道はちと退屈ではある。しかし、間違いなく時間どおりに目的地に着ける。しかも、大して困ったことも起こらん。
赤頭巾
でも先生、ちょっと見てごらんなさい。こっちの小道がどんなにきれいか。鳥でしょ、ひな菊でしょ、クワの実もなってるし、草は柔らかいし、小川も流れてるし…【注2】この小道を行けば、どんなに愉快だかわかるでしょ。花束を作ってあげるわ。あたしの頭ぐらいもある花束よ。でもって、二人で花の根もとのところにいる赤だの青だのの虫をいっぱいさがして、糸でつないで輪っかにするのよ。ね?ね?さあ行きましょう。草の上にジャンプ!さあ!クワの実を片手にいっぱい摘んで。クワの実はお好き、おなかの大きな先生?
ポロニウス
それに、狼もおるぞよ、【注3】可哀想な嬢ちゃんや。
赤頭巾
そうね、そうだったわ、狼がいるのよね…でもいつもいるってわけじゃないし、【注4】たとえ一匹現れたとしても、かまわないわ、二人で食べちゃいましょうよ。
ポロニウス
この子には先の見通しというものが全くない。恐ろしいことじゃ。
赤頭巾
どうしてもあたしと一緒には来られないって言うの?そうなのね。それじゃあいいわ、ご機嫌よう。本当に、とんだ時間の無駄だったわ。
ポロニウス
ああ、なんと気の毒な娘じゃろう。
赤頭巾
さようなら、先生。日差しには十分気をつけてね。 (二人退場)

  • 注1 毎日を勤勉に黙々と働いてすごす道。
    もしくは、この物語が書かれた19世紀中ごろ、女性はそうあるべきとされた、女性の社会進出を阻む道。
    注2 先生や親たちが眉をしかめるであろう芸術家や芸能関係の道。俳優、声優、漫画家など。もしくは、女性の社会進出。
    注3 「狼もいる」とは、失敗するリスクも大きいという警告。
    注4 たしかにリスクは大きいけど、必ず失敗するわけじゃないし、なにかあっても二人で力を合わせて乗り越えましょう、という呼びかけ。
第二場
後刻の森の中。背景は前と同じ。
赤頭巾
(ひとりでいる。後ろに少年が登場する。)やれやれ、もうそろそろああいう暗い考えにはさよならするべきよね。それに、狼だって人が言うほど悪い動物じゃあない。きっと今度はあたしのことを可哀想に思ってくれるわ。あたし、きょうは特にきれいだもの。さっき木の葉にたまった露に映ったのが見えたのよ。それに、あたしはたいていの人より強いもの。狼なんか、首根っこをつかまえてへし折ってやるわ。それにしても、あのおしゃべり爺さんをなんとか森の中へ連れ込んで、頭巾の一族に加えてやったら面白かったのにねえ。だけど、だめだめ。心の狭い人はきちんと整頓された引き出しと同じで、いつも鍵がかかっているもの。いくら引いても、何も出てこなかったと思うわ。何かもっといいことみつけようっと。
             少年が登場する
男の子
(泣きながら)おお、神様。僕は可哀想な子です。
赤頭巾
何がそんなに悲しいの、ぼうや?
男の子
僕が悲しいのはね、きれいなおねえさん、学校へ行かなくちゃならないからさ。こんなにいいお天気なのに、なんてつまらないんだろ。
赤頭巾
なんにしても、泣くなんて馬鹿げてるわ。神様がくださった目は ため池を作るためにあるんじゃないのよ。それに、もしきょう一日で涙を使い果たしちゃったら、大人になったときどうするの?要るときのために、ちゃんと溜めとかなきゃね。さあ、あそこの木の下へ行って座りましょう。あんた、名前はなんていうの?
男の子
ちびピクーって呼ばれてる。ロンパリの、でかピクーの息子だからさ。
赤頭巾
わかったわ、ピクー。あたしにまかせとけば、みんなうまく行くからね。まず何か食べようよ。それからのことは、それからのこと。バスケットには何が入ってるの?
男の子
だめ、この中のものには触っちゃいけないんだよ、おねえさん。僕の昼ごはんだから。母ちゃんがカンカンになって怒鳴りつけるよ。
赤頭巾
あんた、おなかすいてないの?
男の子
わかんないよ。15分ほど前にキャベツスープを鉢にいっぱい食べたばかりだから。けど、何かひと口くらいなら・・・。
赤頭巾
それなら何をぐずぐずしてんのよ、ばかね。さっさとバスケットを開けなさいよ。やった!ジャムとフレッシュ・ナッツだ。あたしの方にはね、ケーキとバターがあるのよ。おばあちゃんに持っていくものなんだけど、おばあちゃんの口には入らないわね、かわいそうに。(ふたり、食べる。)どお、おいしい?
男の子
(ほおばったまま)すごくおいしいや・・・けど、母ちゃんがなんて言うだろ。
赤頭巾
いったい何を気にしてんのよ。そりゃあ、死ぬほど説教くらうかもしれないけど、だからってこのジャム食べるのやめられる?
男の子
ほんとだね。だけど、そしたら昼ごはんには何も残らないじゃないか。
赤頭巾
あんたって本当に馬鹿ね。昼ごはんのときにはお腹はすいてないの。今、おなかすいてる?
男の子
すいてない…ちょっとしか。(立ち上がる)
赤頭巾
でしょ?ちょっと、そんなにあわててどこへ行くのよ。
男の子
学校さ、決まってるじゃん。
赤頭巾
やれやれ。だけど、あんたまた泣きそうじゃないの。
男の子
(ためらって)だってさ…行かなきゃきっと鞭で打たれるもの。明日になったら。
赤頭巾
いま行ったら行ったで、学校来る前に道草くったって、鞭でぶたれるわよ。だから、今ここにいるからには、きょうはここで楽しんでりゃいいの。今日ぶたれるも、明日ぶたれるも、いっしょじゃない。それに、何が起こるかわからないでしょ。きょうが明日になるうちには、先生が脚を折るかもしれないし、学校に雷が落ちるかもしれない。学校は教会のすぐ隣にあるし、雷って教会にしか落ちないものなのよ。
男の子
それって確かに言えてるよ、おねえさん。
赤頭巾
なら行こうよ。もうこれ以上学校のことは考えちゃだめ。あっちの方で黒鳴き鳥が鳴いてるの、聞こえない?あの鳥の巣、二つほど取ってきてよ。鳥は学校へ行くかしら。それからイチゴを摘んでね。森のイチゴを籠にいっぱい。これこそすてきな昼ごはんだわ。学校は暑すぎるわよ。ここで服を脱いで体を伸ばしてごらん。すっかり裸になって、小川の砂地に寝そべるのよ。木の枝がしなってあおいでくれるわ。蚊も追い払ってくれるわ。ナイフで木の皮のボートを作ってみたり、ハンカチをちぎって翼を作ったり、青いアリや虫のことはみんなあたしにまかせてね、お願いだから…ね、どんなに愉快にすごせるかわかるでしょ。
男の子
ああ、イエス様、マリア様。おねえさんが話すと音楽みたいに聞こえるよ。僕のこと一緒に連れてってくれないの?僕、もうすっかりおねえさんのことが好きになっちゃった。
赤頭巾
(首を横にふって)それはだめだわ、ピクー。あんたはここにいる方がいいのよ。もし一緒にいる間に何か悪いことがあんたに起こったら、あたし困るから。さあ、だっこしてキスしてちょうだい。
男の子
喜んで。おねえさん、いい匂いがするね。ほんとにすてきだよ、僕の唇をおねえさんのにくっつけるの。
赤頭巾
(感情的に)さようなら。楽しくやるのよ。
男の子
うん、楽しくやるよ、絶対…それはそうと、さっきのパンのかけら、残ってないかなあ。

第三場

森の中の開けた草地。作家がノートを腹の上に置き、鉛筆を歯にくわえて寝そべっている。

作家
無駄だ、無駄だ!さんざん頭をしぼってもだめ、本の山に埋まってもだめ、何にもならない。出だしの一行も書けない、考えもまとまらない。なのに、約束してしまった。明日には小説を一本、間違いなしに・・・ああ、この怠け者めが!もっといい雰囲気で仕事をするには、牧場へ行った方がよかったかなあ・・・。
赤頭巾登場。
赤頭巾
(歌う)
わたしはチョウチョの父なし子
名付け親はキリギリス
きれいな目だと人は言う
姿形はコオロギの脚
雨よふれふれ、雪も雹(ひょう)も
わたしは走る、牧場や草地を
傘も日傘もなくても平気
(話す)
あらあら。男の人が仕事をしてるわ。変わってること。(作家に近づいて)あなたは芸術家でしょう。違います?
作家
(両肘で上体を支えて)どうしてそんなことがわかるんです、可愛いお嬢さん?
赤頭巾
芸術家でない人が、森を書斎にしたりするかしら。
作家
これはしたり。そうです、私は芸術家です、小説家です。自然から学んで書くつもりでここへ来て・・・
ちょっと待って・・・私の勘違いでなければ・・・以前にどこかで君を・・・わかった!お前は赤頭巾だな。
赤頭巾
ええそう。みんなはそう呼ぶわ。
作家
いや、そんなはずはない。目をあいたまま夢を見てるに違いない。はやく聖水をくれ。はやく十字架を。この悪魔の幻を追い払えるように。
赤頭巾
誰かもう一人ここで仕事をしてる人がいるのね。
作家
さがりおろう、このサタンめ。怠惰の悪魔、粗忽の悪魔、不意打ちの悪魔め。さがりおろう。
おい、聞いているか?お前のことならよく知っているとも。お前は我らの最も恐ろしい敵だからな。さっさと消え去れ、この破滅の使者め!消え去るのだ、悪魔の淫売め!
お前はこれまでにどれほど邪まなことをしたことか。
エジエジップとギュスターヴ・プランシュとあわれなジェラールにお前は一体何をした?ラマルティーヌはすんでのことでどうなったと思う?それからアバディには何をした?トラヴィエには?
赤頭巾
それ、いつになったら終わるのかしら?
作家
今すぐここから消え去らないなら、お前をひねりつぶすまで終わるものか、このいまいましいヘビめ。
赤頭巾
まあ、ご親切だこと。わかったわ、行くわよ、行けばいいんでしょ。
でもね、ちょっと言わせていただきますけど、あたしが悪いことをした人たちは不満なんかこれっぽちも言わなかったわよ。みんなあんたのおかげで楽しい時間を過ごせてよかったって、あたしに感謝したもんよ。
ええ、あたしは赤頭巾よ。怠け者の女王よ。お薦(こも)さんやら詩人やらの気まぐれな女神よ。だからこそあたしはあなたたちの主人なのだし、みんなの心の奥底にはあたしを祭った寺院がある。さあ好きなようになさい。
あなたはあたしを侮辱したけど、それは許してあげる。あたしはあなたを愛しているし、あなたもあたしを愛しているんだから・・・。これでまたもう一日、あたしのおかげであなたは楽しい日を送れるわけよ、この恩知らず。
ごらんなさい、この素晴らしい天気を。森は静かに光り輝いている。頭上では鳥が歌い、足元では小川が歌う。
さあ目を閉じて、可愛い詩人さん。ここの草の上に頭をあずけて。リラックスして、リラックスして。これから12時間あなたは夢を見て過ごすのよ。白い衣装を着て花の王冠をかぶって、素晴らしい12時間をね。
さようなら、あたしの詩人さん。森は森に、夢見る人は夢見る人に・・・。おやすみなさい。(彼のノートを木立の中に投げ捨てる。)
作家
(従順に)キスしておくれ、赤頭巾。ああ神よ…なんて…いい…気持ち…なんだ…。

第四場
一面茂みに覆われた森のはずれ。一組の恋人たちが登場する。赤頭巾は茂みの陰に隠れて、彼らが近づくのを見ている。
疲れたみたいだね、マリー。僕の腕につかまるといい。
彼女
ううん。それより座らない?見て、空き地があるわ。日差しで草も乾いてるし。ここでちょっと休んでいきましょう。
赤頭巾
(隠れたままで) おかしいわ。恋愛中だと必ず女の方が相手を牛耳るものなのね。
傘を頭の上にさしかけてあげようか?
赤頭巾
(隠れたままで) まあなんて どじなのかしら。彼ったら、まるで自分の両手に邪魔されてるみたい。
彼女
いらないわ。このカラマツの枝で日よけは十分よ。
ここはいいところだね、マリー。やかましい音はしないし、人はいないし。ここにあるのは木陰と静けさと、そして僕らの愛だけだ。
赤頭巾
(隠れたままで) ブラボー!いよいよだわ。
彼女
(あたまを彼の肩にもたせかけて) そうね。でもあたし、怖いの。見て。そんなつもりはないのに震えてしまうのよ。自分の気持ちが自分でもわからない。風がちょっと吹いてもビクッとする。ほんの小さな音がするだけでゾッとしてしまうの。ああ、ほんとに怖いわ。
しっかりしておくれ、君は僕の宝物なんだから。何が怖いの、なぜ震えるの?もっと農場の近くに行きたいのかい、それとも、お母さんのところへ帰りたいのかい?
赤頭巾
(隠れたままで) ばか。しっかりおし。18年間 何にしてきたのよ。
彼女
まあ、違うわ。あなたと一緒にいるだけで、あたし幸せなのよ。(一瞬黙る)
赤頭巾
(イライラして) まったく、今度は口もきかないってわけ?
彼女
ああ、いとしい人。どうしてあなたと知り合ったりしたのかしら。(キスの音)
赤頭巾
やれやれ、やっとその気になったようね。(隠れていたところから出てくる。) かまわないから出て行って、いろいろ教えてやろう。
恋人たち
(同時に) あれー、どうしよう、どうしよう!
赤頭巾
いいから、いいから、そんなにびっくりしないで。あたしは赤頭巾。あんたたちと同じくらい気持ちは若い。その上、恋人たちの後ろ盾でもあるんだから。さあ、続けなさい。しっかり抱き合いなさい。あたしはそれが嬉しいの。あんたたちのキスの音をひとつ聞くたびに、あたしの唇もゾクゾクしてくるの。さあ、もう一回して。もう一回!
(キスを続けたくなくて) ああ、可哀想な赤頭巾さん。どうぞ僕らを憐れんでください。
彼女
(キスを続けたくて) おお、そうですとも。憐れんでください。
赤頭巾
それはまた、どういうわけで?
ええと、つまり、僕らはお互い全身全霊を込めて愛し合っているんだけど、結婚させてもらえないんです。
赤頭巾
それで?
それでって・・・・それだけですよ。それで十分じゃないですか。
赤頭巾
ねえ、あんたたち。バラはいったい何のためにあると思う?花束にしていい匂いを楽しむためでなきゃ、なんで神様が道端に咲かせなさると思う?もうひとつ。あそこに深くてすてきな茂みがあるけど、森の小道の曲がり角でときどきああいう茂みを見かけるのはなんでだと思う?恋人たちのためでなきゃ、なんでそんなところに生えるのよ。そう、結婚させてもらえないの、かわいそうに。心底憐れに思ってあげるわ。じゃあね、あんたたち。明日という日は大嘘つきだってこと、忘れないでね。それからもっと大切なのは、バラと茂みの使い方を忘れないこと。(退場)
彼女
わかった?
ううん。君は?
彼女
わかったと思う。

第五場

     深い森。
赤頭巾
あの二人には悩まされたわね。愛って、なんて美しいものなのかしら。あたしはと言えば、だれにも愛してもらえない。あたしを憐れむ人もいれば、憎むべき存在と考える人もいるけど。あたしを好きな人たちは決して心を打ち明けない。もっとも、そうそう、例の喉の赤いアイツがいたっけ。あたしを熱烈に恋して…そのせいで死んだのよね…まあ、なんてこと!雨が降ってきたんだわ。手にしずくがかかったもの。あたしだって泣くこともあるわよ。長続きはしないけどね。
(歌う)
あたしはチョウチョの父なし子
名付け親はキリギリス…。
ひとことポイント
  • 第三場と同じ歌詞ですが、違うのは赤頭巾の【心情】気持ちです。ここのメロディは、赤頭巾の寂しい気持ちがうかがえるような感じが出せるといいですね。(寂しそうに歌うのでも、寂しい気持ちを我慢してムリやり明るくふるまうのでも…。)
おやまあ!あそこに見えるのはなんて変な人なのかしら。ほら、あの飛んだり跳ねたりを見て。あら、今度は逆立ちしてる。ほんとにおかしな人!ほんとに面白いわ。そうだ、頼んで一緒に遊んでもらおう。もしもし!そこの方、そこの方!
狂人
(登場)誰か僕を呼びました?君かい、娘さん?君、僕のこと呼んだ?
赤頭巾
ええ、呼んだわ。あたし、赤ずきんよ。もしよかったら、あたしと一緒に面白いことして遊ばないかと思って。だって、あなた、とても楽しそうなんですもの。
狂人
楽しくなるために楽しくしてるのさ。えーと、君は赤頭巾だってかい?それってだれだっけ?うん、思い出したぞ。花の好きな娘さんで、いつも四つ角に出る道を選ぶんだ。僕もさ。僕も花が好きさ。この柳の枝で冠作ってあげようか?それ、あれみたいにきれいだよ。ところで、名前を教えてくれたと思うけど、忘れちゃった。
赤頭巾
赤頭巾よ。
狂人
いつも忘れちゃうんだ。ねえ、僕をあそこに連れ戻したりしないよね、頼むからさ。(泣く)僕、自由になれてとても嬉しいんだ。だれにも悪いことしないからさ。ねえ、娘さん、僕を連れ戻さないでくれ。
赤頭巾
連れ戻すって、どこへ?
狂人
お医者のところ。大きくってメガネをかけてるんだ。それで、毎日僕に冷たい水をザブザブかける。まるで野菜畑みたいに。
赤頭巾
そうか、あなた頭がおかしいのね。でも、ちっともわからないわよ。
狂人
脳がちょっと病気なんだ。でも、だからって、頭蓋骨をへこましたり、耳を痛くしたりすることはないじゃないか。
赤頭巾
心配しないで。連れ戻したりしないから。逃げてからだいぶたつの?
狂人
わからない。幸せなときはいつから幸せだったかなんて、わからないだろ?ハミングバードとお姫様のお話、聞きたくないかい?だけど、話をする前に名前を教えてくれなきゃ。僕いつも忘れるから。
赤頭巾
あなたってほんとに面白いわね。もう10回くらい言ったと思うけど。あたしの名前は赤頭巾よ。
狂人
じゃあ、頭巾ちゃん。僕の膝に座ってお話聞いてよ。
赤頭巾
だめ。とんでもない。もう遅いもの。ほとんど暮れかかってるわ。おばあちゃんの家まで急いで走って行かなくちゃ。
狂人
さあ始めるよ。まず最初に…。
赤頭巾
だめよ、やめて。あたし、行くわ。(その場を動かずに)さようなら。
狂人
行けば。
赤頭巾
それなら、行かない。ここにいる…さあ、お話してよ。
(狼の吠え声が聞こえる。)
狂人
こっちへ来て膝に乗ってよ。どうしたの?震えているよ。
赤頭巾
あなた、あの悪いケダモノの声を聞かなかったの?ワオーワオーって。
狂人
怖がらないで。僕がいるから。
赤頭巾
あなたっていい人ね。さあ始めて。あたし聞くから。(両腕を友達の首にからませる)
狂人
昔々、ハミングバードとお姫様がいました。お互い、相手のことがものすごく好きでした…寝ちゃったの?
赤頭巾
いいえ、寝てないわ。ハミングバードとお姫様でしょ。
狂人
けれども、王様とお后様は二人の結婚に反対でした。というのも、このハミングバードがひどく…ねえ、聞いてる?
赤頭巾
聞いてる。でも、そんなに大きな声を出さないで。
狂人
ある晩のこと、ハミングバードがお姫様に言いました…。
赤頭巾
(半分眠りながら)とても…面白いわ…あなたのお話…。
狂人
寝ちゃったよ。甘い寝息が首筋にかかる。ゆっくり息をしてる。イヤリングがチクチクするな。とっても幸せだ。
(寝てしまう。狼がそばを走る。)

第六場
次の日。素晴らしい天気。目覚めたばかりの小鳥たちが歌う。中央に祖母の家。鎧戸がおりている。家のそばに井戸がある。

男の子
(赤い目をして登場。鞭をもっている)ちょっとここに座ってあいつが来るまで待とう。来たら、一発殴ってやる。それから、この鞭でビシバシやって終りにするんだ。(すみの方に座る。)
作家
(登場。完全にうちのめされた様子。)あのくそいまいましいでしゃばりはどこだ!俺が一丁首をしめてやる。それから地面の上に図体をおっぴろげてくれるわ!
男の子
もし赤頭巾を探しているんなら、僕みたいに座ってお待ちよ。今むこうから来るところだから。
恋人(男)
(すすり泣きながら登場。)えーい、あの恥知らずめ。どこかに隠れていて、あいつが起こした厄介ごとを全部償わせてみせるぞ。

第七場
    狂人と赤頭巾、腕を組んで陽気に到着する。

赤頭巾
ねえ、友よ。あたし、本当の気持ちを言ったのよ。あなたはあたしのことをわかってくれた世界でただ一人の人だわ。誓って言うけど、あたし生きている限りあなたのことは忘れないわ。ときどきあたしのことを思い出すって約束してちょうだい。
狂人
約束したいよ。是非したいよ。でも名前を教えてくれなきゃ。もう教えてくれたんだっけ?
赤頭巾
(涙をふいて)ほんとにまあ。あたしがたった一人愛した人なのに。友よ、ちょっと背中を貸してくれる?あの桜の木に登ってサクランボでイヤリングを作りたいのよ。
男の子、作家、恋人
(同時に姿を現して)やあ、やっと現れたな!
赤頭巾
(少しびっくりして)皆さん、あたしに何をして欲しいっていうの?三人とも恐ろしい顔をしてるけど。
三人
(声をそろえて)お前だ、欲しいのはお前だけだ。お前の血が欲しいんだ。
赤頭巾
(狂人に)友よ、あたしを助けて。助けて!
狂人
とてもよくできているよ、ここのサクランボは。
赤頭巾
皆さん、皆さん、まず説明してちょうだい。血をあげるのはその後でいいでしょ。(男の子に向かって)まずあんたよ。話して。あんた、あたしをどうしたいのよ。
男の子
言ってやる。お前がどんなに卑劣なやつだか。僕に起こったひどいことはみんなお前のせいじゃないか。お前のおかげで、僕は学校からたたき出されたんだぞ。父ちゃんには鞭でさんざん殴られるし、母ちゃんは(すすり泣く)もう僕にはご飯を食べさせないって言うんだ。
赤頭巾
一つおしまい。ではお次。
作家
私はお前を信用しまいとした。それは正しかった。お前は私を怠けさせ、くだらない夢に溺れるように誘惑した。私は仕事を投げ出してしまい、おかげで一カ月は一文無しだ。
赤頭巾
罪深いこと。で、お次は?
恋人
是非ともあんたに理由を聞かせてほしい。なんであんなひどいことを教えて、僕の頭をみだらな考えで一杯にしたのか。かわいそうに僕のマリーは白い服に緑の染みをいくつも付けちゃって、お母さんにみんなわかってしまって、修道院に入れられてしまったんだぞ。
赤頭巾
みんなそれでおしまい?もうそれ以上言いたいことはないの?
三人
これ以上、何があるって言うんだ?
赤頭巾
じゃあ聞いて、子どもたち。ほんの二、三分でいいから聞いてちょうだい。あたしはあんたたちが思っているような邪悪でたちの悪い悪魔なんかじゃないし、あんたたちがひどい目に遭ったことについては、心から気の毒だと思っているわ。でもね、結局のところ、あんたたちは本当にかわいそうだと言えるのかしら?あたしのおかげで、それぞれ素敵な一日を送ったんじゃないの?そりゃもちろん、今日という日は24時間しか続かないわけだけど、それはあたしのせいじゃないもの。今の苦しい状況は楽しかった過去の思い出の一部だと思って、少しは諦めて、それを受け入れたらどうなのかしら。そして、あたしに大いに感謝するのよ。その方が生産的じゃないの。今あんたたちはこうしてあたしを見ている、皆さん、あたしだってもうすぐ、きのう一日とゆうべ一晩さんざん楽しんだつけを払うことになるのよ。あそこにいる狼があたしのことを待ちかねているから。そして、ああ!あの残酷な牙から逃れる手立ては全くないの。文句を言わずにこの死を受け入れることも、赤頭巾たるあたしの運命だってわけよ。子どもたちよ、あたしを見習ってちょうだい。楽しんだことを後悔してはいけないわ。たとえそのためにどんなに高いつけを払うことになったとしてもね。幸せに値段はつけられない。それを値切ろうなんて、馬鹿な人だけが考えることよ。さあ、あんたたちの復讐の前に身を投げ出すことにするわ。どうとでも好きなようにすればいいわ。
三人
なんてかっこよくて、なんてずる賢いんだ。何かする気になんてとてもなれないよ。
赤頭巾
ね?あたしを痛めつけるなんてできないでしょ。あんたたちは子どもだもの。いい子たちばかりだもの。じゃあ、ちょっとした記念品をあげてお別れするわね。(イヤリングをはずす)サクランボを一つずつ。受け取ってちょうだい。そして明日までとっておいて…ずいぶん先の話よね…もう行くわ。さようなら、お友達、ときどきは赤頭巾のことを思い出してね。(狂人に向かって)それから、あなた。こっちへ来てキスをしてくれないの、最後のキスを?
狂人
(理解できずにスキップをしている。)そういうわけで、ハミングバードはお姫様に言いました。僕たちの別れのときが来たよ。トラララ、デリ、デリ、ララ…。
赤頭巾
あたしの好きな人はもの覚えが悪かったのよね…。(時計が八時を打つ。)時間だわ。すべてのロマンスには終りがある。あたしのもほかのと同じ。ほかのより短いけど、それだけのこと。さようなら、紳士の皆さん。(家の中に入っていく。)
四人
さようなら、赤頭巾。(家の中から大きな物音が聞こえる。)

第八場
同じ四人がいるところへポロニウスが全速力で走ってくる。
ポロニウス
やめろ、やめろ!…ああ、いつもいつも手遅れになってしまう。経験と叡知などという足弱なものでは、狂気とむこうみずに追いつけるはずもないか。大急ぎで来たのに、無駄なことじゃった。狼の牙から赤頭巾を救うことは、わしにはどうしてもできんらしい。(まわりを取り囲んでいる他の者たちに)さて、皆の衆、お見かけしたところ、あの性悪娘の餌食になられたようじゃな。私について来なされ。損なわれたところに手当てをして、また正しい道に戻れるようにしてあげますぞ。(聞いていない狂人に向かって)さあ、そちらのお方も。
狂人
いや、結構、結構です。僕のお話はもう終わりです。ハミングバードは死にました。あなた僕を病院に連れ戻そうって言うんでしょ。それなら溺れて死ぬ方がいい。ロマンスの終りは悲しい方が、僕は好きですから。(井戸に飛び込む。)
ポロニウス
(重々しく)これでおわかりじゃろう。狂人の定めと、用心の気持ちを風に吹き飛ばしてしまった者たちの定めを。赤頭巾とその同類たちの定めを。これは世の人々への警告なのじゃ。  (全員退場)

「赤頭巾ちゃんのロマンス」の赤頭巾も狼に食べられて終わります。ルールを守らなかった者には罰があたえられるのです。
しかしこの物語の赤頭巾は、そのことを前もって知っています。リスクを知ったうえで人生にチャレンジしています。そこがグリム童話などの赤頭巾との決定的な違いです。親の言う通りに生きるのではなく【自分で考えて】行動する大人なんです。
赤頭巾は狂人とだけ、気が合います。道徳や規則を重んじるポロニウス博士のような【まともな大人】や世間からは、自由な赤頭巾は頭がおかしいとしか思えないという暗示かもしれませんね。
  • 赤頭巾は安心したんでしょうね。第五場で、狂人と心が通い合い、安らぎを得て眠りにつき、翌日の朝を迎えます。「あたしがたった一人愛した人」の解釈は、【赤頭巾の心が安らぐ、世界でたったひとりの人】だと思いますよ。
親の言うことは、たいてい決まっています。「勉強しなさい、マンガ・アニメ・ゲームなんてダメです。いい大学に入って、いい会社に就職しなさい」

それが間違っている、というのではありません。
自分の意志で、「アニメやゲームは一切やらず、勉強のみを頑張る」と決めた人なら、それでいいでしょう。
問題は、楽しいかどうかなんですね。
この物語に登場する、男の子、作家、恋人たちは、親の言うことや社会のルールに縛られて苦しんでいる者ばかりです。
たしかに親の言う通りにして、レールの上を進んだ方が無難です。リスクや間違いも少なくてすむでしょう。
ですがもしも、「今が苦しくてつらいのだったら、他の生き方だってあるんだよ」
ハッピーエンドではありませんが、赤頭巾はそれを身をもって示したんだと思いますよ。
  • 「赤ずきんちゃんのロマンス」は、悲劇が好まれるフランスの作品です。ハリウッド映画(アメリカ)でしたらハッピーエンドだったかもしれませんね。

赤頭巾ちゃん読み比べ

ペローの赤頭巾と、グリムの赤頭巾を比べてみよう!
これは「宇宙戦艦ヤマト2199」と 1974年制作のオリジナル版など、アニメのリメイク作品を見分ける訓練にも役立つよ。
ペローの赤頭巾は狼に食べられて終わります。猟師は登場しません。物語のお仕舞いには、「狼とは男性のこと。娘さんは気をつけて」という教訓が添えられています。
グリムの赤頭巾は、1812年の初版第一巻に26番【KHM26】としておさめられました。エーレンベルク稿【初版以前の草稿】のなかには、まだ「赤ずきん」はありません。初版から第七版まで変わらず26番ですが、グリムの赤ずきんには、あまり知られていない後日譚【もうひとつのお話】も載っています。猟師に助けられた後も、赤頭巾はおばあさんの家にお使いに行くのですが、そこでも狼に狙われるんです。
でも後日譚の赤頭巾は、お母さんの言いつけをしっかり守り、おばあさんと協力して、自分たちの力で狼をやっつけるのです。「親のいうことを聞く子は幸せになれますよ」というお話になっているんですね。
ペロー童話では、赤頭巾は服を脱いで狼のベッドに入ろうとします。なぜならペローの赤頭巾は前述したように、若い女性への教訓ですから、その描写が必要だったのです。
グリムの赤頭巾に、その描写はありません。グリム童話の赤頭巾は、おばあさんのベッドのそばに立っているだけです。ベッドには入りませんし服も脱ぎません。「親の言うことを聞きましょう」という教育が目的ですから、その描写は必要なかったんですね。
ペロー童話の赤ずきんは、狼に「食べられ」ますが、グリムの赤ずきんは「呑(の)み込まれた」という表現になっています。呑み込まれた後、猟師に助け出されるのです。
狼という「悪」に呑み込まれた後、「善の象徴」である猟師に救い出され、赤ずきんは善に目覚める(親の言うことを聞く)筋立てになっています。キリスト教信者のグリム兄弟らしいストーリー設定ですね。
ペローの赤ずきんが救われない悲劇的な結末なのは、ドイツのマリアンヌ・ルンプフによる博士論文「赤ずきん―メルヘンの比較研究」に、【水や森に近づいたりすると危険があるぞということを教える恐怖民話とか警告民話というジャンルが伝承にあるからで、「赤ずきん」は本来その型の話である】と述べられています。
グリムの赤ずきんに猟師が登場するのは、ドイツロマン派の作家ルートヴィヒ・ティークの戯曲「小さな赤ずきんの生と死」(1800年)の影響が大きいとされています。赤ずきんの物語に初めて猟師を登場させたのはティークです。ティークの猟師は狼を鉄砲で撃ち、狼は死にますが、赤ずきんは狼に食べられたままで助かりません。グリム童話で、猟師が狼のおなかをハサミでじょきじょき切って赤ずきんを助けるシーンは「狼と七ひきの子やぎ」の結末を変奏してくっつけた、といわれてます。

以上、「ペローとグリムの赤頭巾を比べてみよう」でした。
【参考文献】
赤頭巾ちゃんは森を抜けて― 社会文化学からみた再話の変遷 阿吽社
グリム童話―メルヘンの深層  講談社現代新書
ねむり姫の謎  講談社現代新書
グリムにおける魔女とユダヤ人  鳥影社
【初版以前】グリム・メルヘン集  東洋書林
グリム兄弟 ドイツ・ロマン派全集第15巻 国書刊行会
初版グリム童話集  白水社
完訳グリム童話集  岩波文庫
完訳グリム童話  角川文庫
メルヘンの深層 歴史が解く童話の謎  講談社現代新書
赤ずきんちゃんはなぜ狼と寝たのか  河出書房新社
誰が「赤ずきん」を解放したか  大和書房
「赤ずきん」のフォークロア 誕生とイニシエーションをめぐる謎 新曜社
グリム童話の誕生  朝日新聞社
昔話入門  ぎょうせい
猫の大虐殺  岩波書店
完訳ペロー童話集  岩波文庫
眠れる森の美女  角川文庫
長靴をはいた猫  河出文庫
ペロー昔話を読み解く 赤ずきんの森へ  西村書店


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