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![]() マイズナー・メソッド演技 第3弾【実践練習編】です。 ![]() 戯曲の一部分や詩を使って行う練習や、読解力についてご紹介します。 |
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第12章 最終シーン――たんなる真実に代わって 九月二十七日 『春の目覚め』 フランク・ヴェーデキント作 第3幕5場 寝室。医者、ヴェンドラ、ベルグマン夫人。 バーグマン夫人と医者が退場する。 ヴェンドラ
「無鉄砲にも、小さなカヌーを荒れ狂う川に浮かべたら、カヌーの動きは何によって支配されるだろう?」 「川の流れです」セイラがいった。 「川だ。それはわかる。川は感情だ。そうだな。さて、この芝居について知っておかなければいけないことがある。この芝居は、子供の無知に対する激しい反撃として書かれている。十四歳――彼女は子供だ。セイラ、わかるか。十四歳で妊娠するということは、君の母親にとっては、君が麻薬か人殺しをやって刑務所に入るようなものだ。悲惨なシーンだ。」 「はい」セイラがいった。 「さて、このシーンの問題は、感情準備つまり川の激しさと、これが若者を無知のままにしていることに対する激しい抵抗の芝居であることを理解することのなかにある。それはあたかも、二日前に結婚したばかりの若い夫が事故で死んだことを、君と君の母親が知るようなものだ。これは人生の不幸に対する悲嘆のシーンだ。」 「そんな恐ろしいことが起こっても、何も打つ手がないということですか。」 「もし裁判官が『終身刑』といえば、何も打つ手はない。何もない。芝居の中では、この部屋は君にとって監獄のようだ。明確になったか。」 「はい」セイラがいった。「とても。」 「私だったら、このシーンの感情的な内容を解き放つ練習をする。先ほど台風のなかのカヌーのことをいったが、あれはこのシーンのリズムと内容を説明する一つの例だ。質問があるか。」 「二人の感情について話しているんですか?」とライラがたずねた。 「二人とも同じカヌーに乗っている。」 「わかりました、二人は一緒に台風の中にいるんですね。でも母親は娘の無知についてもっと責任と罪を感じることが大切ですか?」 「それは心配しなくていい。やっているうちに現れてくる。君はカヌーを川にのせればいいんだ。」 「カヌーを川にのせるんですか?」セイラがたずねた。 「それが感情準備だ。短いシーンだから・・・」 「月曜日にやります」ライラがいった。 「せりふを覚えること。月曜から始める。いいか?」 「はい」ライラがいった。「月曜には台本なしでやれると思います。」 「カヌーに乗っていればだ!」 十月四日 「そのまま動かないで。本をしまって。ライラ、座ってくれ。セイラ、そのベッドカバーをとって。ライラ、君は知ったばかりだ――私は想像力について話をしている。君の娘が刑務所に行こうとしている。何でもいい!かまわない!いいか、何を考えてもかまわない。泣くんだ!やめろというまで泣き続けろ。それでいい。泣き始めて!さて、セイラ、君は女優だ。もし医者が肺癌だといったら、君は取り乱すか?」セイラは頷いた。ライラが泣き始めた。「それでいい。セイラ、母親が死にそうだといわれたら、君は取り乱すか?」 「はい」 「では、泣き始めて。」 少し間をおいて、ライラがいった。「先生がいったのは・・・」 「テキストはない。テキストは!感情だけだ!言葉を使いたければ、私が癌や刑務所についていったことを使えばいい。」 ふたりは静かに泣いていた。しばらく間があった。 「せりふをいくつか覚えていて――互いにやり取りできれば――君たちは会話をすることができる。もし、覚えていればだ。覚えていなければそれでもいい。」 泣き声が激しくなった。ライラはあたりかまわず泣いていた。大きな、青い目から涙が流れ落ち、睫毛のマスカラが流れ落ち始めた。ふたりの女性はシーンを始め、テキストはライラの深く感じ入った感情の上を浮かび流れた。しかし、セイラは静かで、あまり感情が動いてないように見えた。 「セイラ、泣いて!」 「ああ」と彼女は叫び、いらいらして、こぶしでベッドを叩いた。まもなく、彼女はすすり泣き始めた。胸が張り裂けそうな光景だった。「貧血じゃないわ!わかってるの!」彼女は泣いた。 まもなく、嘆きが少しおさまったとき、ライラがあえぐような声でいった。「あなたは・・・貧血なの・・・すぐよくなるわ。」 セイラが、苦痛に苦しんでいるかのように叫んだ。「もう治らない!治らないわ!」それから、気を静めながら、「ママ、私死ぬのよ。」 「死ぬはずないわ。」ライラがすすり泣いた。「死ぬはずないわ。ああ。死ぬはずないわ!」 「じゃあ」セイラはなじるようにいった。「なぜそんなに泣くの?」 涙でかすれたような声でライラがいった。「死ぬはずないわ・・・あなたは水腫症に罹っているだけなの。あなたは・・・あなたは身ごもっているのよ!なんてことをしたの。」 「何もしてないわ!」 「嘘だわ。知っているのよ。でもいえなかった。ああ、ヴェンドラ!」彼女はさらに泣いた。 セイラは驚いた。そして囁くような声でいった。「そんなはずない。私は結婚していないのよ。」 「そう、結婚していないのよ。ああ、いったいなんてことをしたの。」 「ママ、ママのほかだれも愛したことないわ。ママだけよ。」 せりふには無理があるように聞こえた。マイズナーが中断させた。 「本にとらわれている!」ライラは泣き続けた。「しかし、いい感じだ。なぜなら、これがシーンだからだ。頭が変になりそうなせりふのないシーンだ。そこでは二人の人物がひどい経験をする。君たちのことじゃないが、せりふなんかだれでも覚えられるんだ。私は前回いった――これは批判ではない――カヌーのことだ。それが大事なんだ。感情がいっぱいになったとき、思い出したせりふを投げ出すんだ。怪我はしないから。」 クラスが笑った。 「これはシーンなんだ。本はいらない。テキストもいらない。私はこれ以上いわない。理解できたか。」 「そう思います」ライラは絹のハンカチで目を拭きながらいった。「私はとても強い感情準備を考えました・・・」 「どの部分だ。」 「彼女がそこまでいたっているとは思いませんでした。」 「本にそう書いてある。」 「つまり、はじめの部分です。私はそこに入れるように取り組んでいたんです。」 「この世界には、せりふ俳優が多すぎる!束になるほどいる!夏のニュー・ハンプシャーだ!私たちは演技の話をしているんだ!この役の性格はなんだ?娘がやったことでスキャンダルを恐れている女。自分の起こしたスキャンダルに打ちのめされようとしている娘。そうだな?」 「ええ」 「これがシーンだと、私がいった意味がわかるか?」 「感情準備を、あのようにいっぱいにしなければいけないということですか」セイラがたずねた。 「そうだ。リハーサルをするときは感情準備をし、本を持たずに自由に演じる。それからやめて、お茶を飲みながら大統領の話をして、それからまたリハーサルをやるんだ。」 「私はまだ混乱しています」ライラがいった。「つまり、おっしゃっていることは理解したと思います。そして、それは明らかにあなたが最初から望んでいたことです。私は感情的に動けるように準備していました。シーンが始まるとすぐ、私は彼女から隠れようとしていました。」 「いや、君は隠れていなかった。感情のことで私をごまかすことはできない。」 「では、そうしようと試みていたんです。」 「そのことはもういい。私は『これはシーンだ』といった。やがて君はテキストに取り組んで、せりふのやりとりをする。何が不思議なんだ。理解できないのか。」 「これを続けたいですか」ライラがたずねた。 「そのとおり!それだけだ。」 「その方向に向かっていると思っていました。」 「その方向に向かうんじゃない。そこにいるんだ。」 「でも、どうすればいいんですか?」ライラがいった。「もし感情準備が、シーンのはじめにはないもののためだとすると」ライラがたずねた。 「そんなものはない。感情準備はただシーンのはじめのためにある。それは瞬間ごとに補われ、変化していく。テキストから得られるものではない。」 「それでは、誤解していました。」ライラがいった。「これはとても苦しいリハーサルでした。」 「シンプルになることだ。ヒステリー状態になるように感情準備をする。次第にせりふを勉強し、両者を合わせる。感情準備し、それからパートナーと、瞬間、瞬間、感応していけば、君はずっと嵐の川にのっていられる。私が話していることが分かるか。シーンを始める前に君が知っていることは何だ。」 「『私の娘が妊娠している』ということです。」 「必要なことはそれだけだ。娘が死んだ!という意味だ。君は泣く。これほどシンプルなことがあるか。ガーデン・ストリートからきたシュミット夫人とはだれだ。」 「昔からの友だちだということにしました」ライラがいった。 「いや、彼女は堕胎の専門家だ。」 「泣くんだ。二人とも。それから話し合う。それが私の演技の方法だ。泣いて、それから話をする。まず話してから、泣くことは期待するな。そんなことは起こらない。シーンを始めたとき、君は何の感情も持っていなかった。今度は持っていた。次もきっと持っているよ。」 十月十一日 ライラとセイラはヴェーデキント作『春の目覚め』のシーンの最後のくり返しをやった。それは涙にあふれ、心動かされるものであった。しかし、彼らの感情の昂りと、経験不足のために、彼らのせりふをすべて理解することは困難だった。 「いいよ。鼻をかんで。感情的に・・・」二人がまだ泣いているので、マイズナーは話を止めた。「ライラ、笑って!国歌を歌うんだ。」 ライラは涙にかすれた声で歌ってから、くすくす笑い始めた。 「そうだ。セイラ、自分をくすぐって」セイラが笑い始め、クラスが笑いに加わった。 「感情的だった。これがシーンだ。前回と今回の違いが分かるか?」 「はい」ライラがいった。 「そうか。私が心がけていることは、君たちがシーンの生命を作家が意図したように演じるということだ。技術的に、明確さが足りないという欠陥はあったが、私は気にしない。大事なことは、君たちが先ほど持っていたシーンの感情的な生命を失わずに、理解されることだ。感情を持つことに慣れることが、大きな助けになる。明確さは自然に出てくる。カヌーは転覆しない。わかるか。」 「そう思います」セイラがいった。「おっしゃっていることは、リハーサルをしていくにつれて・・・」 「シーンの生命を失わずに、より明確になっていくということだ。」 「シーン全体を通して、感情の高まりがピークに達していてはいけないということですか」ライラがたずねた。 「そうだ。いつもではない。」 「しかし、あなたは私たちにピークを求めてほしいのでしょう。」 「そこからスタートするということだ。」 「はい」 「これは作家が書いたシーンだ。私は感情があるべきところにあったといっている。ただ、技術的に弱かった。しかし、それはよくあることだ。」 「芝居の中ですか、それとも実人生の中ですか。」 「芝居の中だ。実人生ではない。実人生の中では君たちは生きることを強制されない。わかるか。」 |
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五月三日 「みんないるか?」マイズナーはいって、机に座った。 「ゆっくりとやろう。今日はエドガー・リー・マスターズの『スプーン・リバー・アンソロジー』という詩選集を使って練習をする。 私たちの演技にとって、このテキストは詩ではない。独白でもひとり芝居でもない。私が後で説明するきっかけのせりふの後に続く、芝居の中のせりふだ。レイ、君はどの詩を選んだ?」 レイがいった。「ロバート・サウジ・パークの詩を読みます」レイは舞台の真ん中に置かれたグレーのメタルの折り畳み椅子に座って、はっきりとした静かな声で読み始めた。
「さて、この長ぜりふの芝居の中のきっかけのせりふは、おそらくこうなる『レイ、どうして急に批判的になったんだ』――彼の名前はなんだった?」 「ブラッド、A・D・ブラッドです」レイがいった。 「――A・D・ブラッドに。以前は彼のことを称賛していたじゃないか?君はこんなふうに質問をされるかもしれない。すると、この長ぜりふが答えになる。」 「君のパートナーは誰だ?」 「ローズマリーです。」 「彼女がそう質問するかもしれない。君の答えはなんだ?」 「このせりふですか?」とレイが聞いた。 「そうだ。これは独白ではない。質問に対する答えだ。」 「はい」 「試しにやってみよう。ローズマリー、どうして A・D・ブラッドに批判的になったのか聞いてくれ。」 「どうして A・D・ブラッドに批判的になったの?」ローズマリーが聞いた。 「彼を市長にしようと、あり金全部使ってしまったからだ」レイは激しい、抑揚の変化する声で答えた。「世界でもっとも偉大な政治家だと思って、彼のために一生懸命に働いてきたんだ。そして、彼がひどい贋物だと気がついて、今まで好きだったという事実にぞっとした。彼をいい人間だと思い、事実を知らなかった自分が嫌になったんだ。」 「いいだろう」マイズナーはいった。「それが最初の考えだ。レイ、せりふの最後の二行は何だ?」 レイは本を床から取って、詩を探した。「みんなにいう。理想に気をつけろ、愛を与えることに気をつけろ、生きている奴なんかのために。」 「どんな感じがする?」 「辛辣です!裏切られた怒りを感じます。」 「感情準備できるか。」 「はい」 「いいだろう。いいか、みんな。長ぜりふの感情的な要点は普通、最後の二行にある。この場合は『偽りの偶像を憎む』だ。そうだな?」 「そうです」レイはいった。「個人的な答えという意味が分かりました。」 「いいだろう。さて君に見せるものがある。君にとって意味があるかやってみよう。私は、芝居の中の短めの長ぜりふをいう直前だ。とにかくやってみよう。」 マイズナーはすぐに、何か不思議なことに喜んだようすで手を叩き始めた。 「私のせりふは次のように始まる。『私は人生で最悪のタクシー事故にあった!その事故で二人が死んだ!』次に笑いと言葉が続いてから、私は最後のせりふに辿り着く。『でも、私は無事だった。私の友人もだ。』感情の要点は最後のせりふにある。いったん愉快な気分を準備してから、長ぜりふを始める。たとえ最初のせりふが『私は人生で最悪のタクシー事故にあった』だとしてもだ。 これらの長ぜりふでは、最後の二行が全体の感情の色を決定づける。たとえば、君のパートナーがシーンの中で、『あなたはいつも幸せそうね。なぜいつも笑っているの?』といったとする。君の答えは『私は人生で最悪のタクシー事故にあった』だ。そして、最後に『嬉しいことに、私は生きている!』になる。私の話の論理が分かるか?」 レイが頷いた。 「いいだろう。ローズマリーと練習してくれ。彼女もせりふを持っている。最後の二行のせりふから感情準備をして、それから――練習のために――その長ぜりふを動機づける単純なきっかけのせりふを作るんだ。 もう一度くり返す。詩は芝居の中の長ぜりふとして扱われなくてはならない。それはきっかけのせりふに対する答えとなる。独白ではない。」 「ということは、本に書かれている言葉をローズマリーに話すということですか?」 「そうだ、君がなぜそんなに怒っているのか、彼女に明らかにするんだ。何から始めるんだ?」マイズナーはローズマリーに聞いた。 「長ぜりふの最後の二行に基づく感情準備からはじめます。」 「感情準備にゆっくり時間をかけること」マイズナーは付け加えた。 「それから長ぜりふを、長ぜりふの要素をいくらか含んだ自分の言葉で答えながら、即興でやる。それから感情準備をしてテキストを読む。即興をして、次にテキストを読み、それからまた即興をする――いつも感情準備をしてからすること。次のクラスでは、本を使った長ぜりふはやらない。君たちが題材を感情的にしっかりとつかんだと私が感じとるまでは、それはやらない。君たちは長ぜりふの最後の部分から感情準備をし、その内容を自分の言葉で相手に伝えることにことによって、長ぜりふのリアリティをつくり、それを自分のものにするんだ。何か質問は?」 「はい」ローズマリーがいった。「A・D・ブラッドについての長ぜりふを即興でやるとき、レイはA・D・ブラッドの名前を使わなくてもいいですか。」 「もちろんだ!」 「『俺は、不公平に扱われるのは嫌いだ』というだけでもいいですか。」 「そうだ!その場合、長ぜりふはA・D・ブラッドについてではない。偽りの偶像についてだ。そうだな?」 クラスは頷いた。 「いいよ。レイ、座って」マイズナーがいった。 「ベス、詩を持ってきたか。」 ベスが前に進んだ。彼女は『イーダ・フリックリー』の詩を読み始めた。
「ある場所に行って、ひとりそこに閉じ込められたように感じる。しかし。何とかそこに繋がっているという幻を視て、自分の力でドアを開け、その場所を家とし、そこはずっと自分の家だったことを証明するということです。」 「それは、この長ぜりふの意味ではない」マイズナーがいった。 「いいか。やって見せよう」彼の顔は喜びの笑顔とともにぱっと明るくなった。「私は見知らぬ町で、汽車を降りた。私はだれも知らない。だれも私を知らない。早朝だった。私は歩き、大きな邸の前を通り過ぎた。ひどくお腹がすいていて、その家が大きなはさみで二つに切られる幻を見た!私はホテルに行った。そこで男がウインクをした。私はどうしたと思う。男にウインクを返した。彼は食べ物を買ってくれた。私たちは一緒に寝た。そして、彼は結婚すると約束した。しかし、彼が約束を果たさなかったので、とことん訴えてやった!そして、邸を手に入れた!私!この世の中で、望んで手に入らないものはないの。すてきでしょう?」 彼の喜びが伝わって、クラスが笑った。 「これが、この長ぜりふの意味だ。わかるか。」 「はい」ベスがいった。 「この長ぜりふに対する感情準備はどんなものだろう?」 「すべて可能だというような。夢のような――」 「それは感情じゃない。文章だ。君はくすぐったがりか。」 「そうでもないです。」 彼は前列に座っているベティを指した。「彼女をくすぐってやれ」彼は命令した。「くすぐるんだ。」ベティはベスに近づき、彼女の後ろに回って、脇腹をくすぐり始めた。 「本当よ!私はくすぐったがりじゃないわ」彼女は本当に大笑いし始めた。クラス全体もその笑いに加わった。 「さあ」マイズナーがいった。「彼女にストーリーを話して!早く!」 「私は汽車を降・り・た」ベスは大声を上げた。「ゴージャスな邸を見た!ああ、私は腹ペコ!宿まで歩いていって、仕事をくれと頼んだ――」このときベティが嬉しそうに笑いに加わった。「そこで会った男があの邸の持ち主だった!」二人はさらに喜んで笑った。「彼は結婚すると約束した。そして、約束を守らなかった」ベスは続けた。「私は彼を訴えて、一文のこらず取ってやろうとしたわ。どうなったと思う?」ベスがたずねた。ベティは首を振った。「勝ったのよ!」彼らは二、三分間、親密そうに一緒に笑った。 「何が証明された?」マイズナーがたずねた。 「もし私がくすぐったがりだったら、すべてが可能だってことです!」ベスは幸せそうにいった。 「分かり始めたか」マイズナーが生徒たちにたずねた。 「そうすると、最後の二行から得られるものを、最初から使うということですか。ぼくは最初に感情準備をして、最後の二行のためにとっておくのかと思っていました。しかし、あなたは先ほどのようにやってほしいのですね」ジョンがいった。 「私がやったタクシー事故の場合はどうだった?」 「最初からでした。」 まるで中毒になったかのように、ベスとベティがまた大笑いし始めた。 「月曜日まで、そうやっていろ」マイズナーがいって、クラスが笑った。 |
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「君は隠さないし、隠そうとしない。君は感情を持ち、それを表に出そうとしないだけだ。わかるか。」 「いいえ、チェーホフの人物は、感じていることをいつも隠していませんか。彼らは感じているけど、隠そうとしています。」 「ああ、チェーホフか!大きな問題だ。 『三人姉妹』はマーシャの場面から始まる。三人姉妹の二女、死ぬほど退屈している。彼女のせりふが始まる。『父は一年前の今日死んだわ』メランコリーでいっぱいだ。しかし、彼女は――。彼女は、ある種の気分の中で過去を語る。それから、マーシャの夫、学校の教師で退屈な人物が入ってくる。彼は彼女を迎えにくるが、彼女は彼を嫌っており、すぐに家に帰るといって追い払ってしまう。それから、ヴェルシーニンが入ってきて、彼の人柄で家族みんなを魅了してしまう。しばらくたって、マーシャが――彼女はそれまで一言もしゃべらなかった――突然、宣言をする。『昼食を取って行くわ』さて、なぜそんなことをするんだろう?」 「教えてください。」 「彼女はヴェルシーニンに、恋いこがれているんだ。しかし、彼には一言も話さない。一方、彼は彼女が部屋にいることにはほとんど気づかない。」 「そうすると、マーシャを演じる女優は、彼女が彼に恋していることを、他の人たちから隠そうとするんですか。」 「彼がそこにいることが、彼女を変える。彼は彼女に霊感を与えることをいう。あるいは、彼女は彼のことをセクシーだと思う。それはだれにも分からない。大事なことは、それは典型的なチェーホフで、感情は全く内面にある。彼女は何もしないだろう?」 「『昼食を取って行くわ』というまでは。」 「そこまでだ。しかし、彼女は不満をいいながら、芝居を始める。『家に帰らなくちゃいけない。なんてことなの!』彼女の中の大きな変化は、全く内面的なものだ。 『かもめ』の最初のせりふで、もう一人の教師、メドヴェジェンコは、もう一人のマーシャにいう。『なぜ、いつも黒い服を着ているんですか』彼女はいう。『私の人生の喪に服しているの』このせりふを動機づけるために、女優はいったいどれだけの選択があるか想像できるか。マーシャは父親に恋していることにするかもしれないし、マーシャは恋をしたことがないことにするかもしれない。女優は何かを選び、あたかもそれがジョークかのように、ほほえみの奥に隠すだろう。」 「すると、内面に何かを感じ、それを隠す場合もあるということですか。」 「いや、真実の上に仮面をかぶせるためには、それをジョークだと思っていることを示さなければならない。文字通り自分の人生の喪に服すために、黒い服を着ているということをだ。この違いがわかるか。チェーホフは、そのような深い部分から書いている。 『桜の園』の最後で、ラネエフスカヤ夫人は、桜の木を切り倒している男にいう。『さようなら!』これは桜にだけれど、最後の時代になるのかもしれない!チェーホフは恐ろしい!」 「なぜですか」レイがたずねた。 「とても謎めいているからだ。」 「恐ろしくない作家は?」 「チェーホフだ。だけど、とても難しい。こんなせりふがある。『イワン、市場でトマトを一ポンド買ってきておくれ』そして、ト書きに書いてある。『彼女は、わっと泣き出す』」クラスが笑った。「そうだ。彼はすばらしい。それは間違いない。だけど、とても難しい。」 |
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