発声練習【1】
ピアノの音に合わせてするのが正しい音感を身に付けるためにも理想です。
しかし、ない方はやむをえません。ほかの楽器でもよいのですが、ギターなどでは、姿勢にムリを生じますから、できればピアノの音を録音して、それに合わせてなさるとよいでしょう。
もちろん音程に自信のある方は、楽器なしでも結構です。
  1. 女性はピアノの鍵盤中央の 「ド」 から1オクターブ上がったところの 「ド」 の音から、男性は女性より1オクターブ下の 「ド」 (鍵盤中央の「ド」)の音から、「ドレドレド」 の音階で 「ホ・ホ・ホ・ホ・ホ」 とスタッカートで発声し、息を戻します。

    最初に発声する前に息を吸わないこと。
    (イ) 自然に話をするときの感じで声を出し(呼気)、(ロ) 声を出したために使った分だけもどす(吸気)という二拍子の呼吸法【注1:息を吸いすぎるとかえって声が続かない】です。

    男女とも、この練習に使う声の種類は裏声【注2:地声と裏声の切り替え方】を主にします。スタッカートとは音楽で一音符一音符ごとを切り離して奏することで、「ホーホー・・・」 と次の音を続けずに 「ホ・ホ・ホ・・・」 と切れ目をつけて歌います。
  2. 次に 「ドレドレド」 の音階を保ちながら、半音ずつスライドさせて音を上げていき、苦しくなって顎が上がってしまう状態になったらやめます。
  3. 苦しくなると音の感じがくずれてきます。思い直して、最初の 「ドレドレド」 のときと同じ気持ちで、もう一度やめたときの半音上の高さでやってみます。

    さっきは苦しかったのが、今度は一段階上がっているわりに楽に出るはずです。そして、今度は半音ずつ下げていって、苦しくなったところでやめます。
    ここまでで1回。この練習は1日1〜2回まで。3回以上やってはいけません。
<注意>
  1. 始める音の高さは、ピアノの鍵盤中央の 「ド」 から1オクターブ上がった 「ド」 の高さから、とは限りません。なんとなく気分が良い時に口をついて出てくる高さ。あなたの出しやすい高さから始めてよいのです。

    ただし女性は 「ド」 の音、男性は 「ソ」 の音ぐらいから裏声になるのがふつうですから、この音から始めるとやりやすいでしょう。
  2. 肩や胸などに力が入らない、楽な姿勢ですること。そして顔や首の位置を動かさないことを心がけてください。
    はじめのうちは姿勢と声を出すことが結びつかず、とまどってしまうことでしょうが、少し続けていくうちに勘がつかめると思います。

    この練習を続けていくうちに 「ホ・ホ・ホ・・・」 の 「ホ」 の音の 「H」 の音が目立たなくなり、「オ」 の音に近く聞こえてきます。微妙な変化ですが、録音して比較してみても敏感な人なら判断できるでしょう。

    これは、かたくなっていた声帯がやわらかくなり、声門閉鎖がソフトになってきた証拠です。こうなると、たとえば日常の会話で声の出始めが強く、かたい人も、やわらかい響きの良い声に変わってくるはずです。

    息が続かず、ちょっと疲れたりすると声が出しにくい、と悩んでいた人も、声帯の効率がよくなってくるはずです。疲労のために呼気が少なくなっていても、少ない呼気を有効に使えますから、楽にきれいな声が出るようになります。
    今まで出せなかった高い音や低い音も出せるようになってきますから、むずかしい歌も充分こなせるようになるでしょう。

発声練習【2】
  1. 呼吸のしかた、音階の変化のさせかた、などはすべて 【1】 のスタッカートの練習と同じです。

    【1】 はスタッカートで 「ホ・ホ・ホ・ホ・ホ」 と切れ目をつけたのに対して、今度は声を続けながら 「ホホホホホ」 と 「ドレドレド」 の 「レ」 に変わるところで紙をめくるような感じで音程を変えるのです。
    ヨーデルの 「ホォオォオ」 のように速度を出来るだけ上げて、しかもなめらかにやってください。
  2. 【1】 のスタッカートの場合と同様、半音ずつ上げていって苦しくなったらやめ、もう一度思い直して一段階上の部分をやったら、逆に音を下げてきて、苦しくなったところで終わりです。

    これが1回。この場合も、練習は1日1〜2回まで。3回以上はやらないこと。
    【1】 のスタッカートと違って、この練習は初めての人にはちょっと難しいかもしれません。
    一度コツを覚えてしまえばなんでもないことなのですが、はじめは正しい発音を聞かせてマネをさせても、どうやって声を出したらいいのか、考え込んでしまう人がいます。
    コツは、軽く、なんの気なしに声を出してみること。自然に出すこと。コツのつかみ方は野球やゴルフなどと同じで、人それぞれ違います。

注1:息を吸いすぎるとかえって声が続かない
ふつうの会話の場合は、呼気と呼気の時間の比率がおおよそ1対1です。
従来の呼吸法は、吸って、吐いて、残っている空気をもどす・・・といった三拍子の繰り返しでした。どうしても空気を吸いすぎて余ってしまうのですね。
息を吸いすぎると、かえって体がかたくなって声が続かないものです。のどにも力が入ってしまい、息を声に変える効率が悪くなります。

逆に息をあまり吸い込まないでやってみるとわかるのですが、少しもかたくならず、構えがなくなり、効率が上がるのです。そして、息の使い方が楽になります。

呼気と呼気を意識しないのが、たしかに理想の呼吸法です。あまり息を吸いすぎると、声の出だしなどが乱れる傾向もあるようです。そうした場合に、ふっと一息抜いてから話し始める人もいます。こうした息の抜き方とか出し方などは、とても微妙なテクニックなので、表現の仕方も昔から先生によっていろいろです。

息を吸う時は、バラのにおいをかぐように・・・水平線の上に流すように声を出す・・・とうとうとした川の流れのような息の流れ・・・。
こうした暗示をかけながら練習して、声の変わり方を調べていくわけです。
そして最後には、意識下でリラックスして声を使うようにするのがよいでしょう。

注2:地声と裏声の切り替え方
さて、声が低い方から高い方へ変わるなかで、ある高さから急に声の性質が変わっていくものです。

つまり音色が変わります。
この、高い調子で音色が急に変わった声を、裏声と呼んでいます。

日本ではこの音色の違いを 「地声」 と 「裏声」 という区別をしますが、洋楽発声では声区という区別を作り、胸声区(重い声区)、中声区(中間の声区)、頭声区(軽い声区)、ファルセット(仮声区)、という分類をしています。日本でいう 「裏声」 は、洋楽の頭声区やファルセットに近いわけです。
洋楽の声区の分類は、もともとはパイプオルガンのパイプの長さ、太さを変えて音色の変化を表した、その言葉を転用したもので分類法はいろいろあります。

胸声区、頭声区といった名前がついているので、あたかも共鳴する場所を意味しているように聞こえますが、あまり関係ありません。

問題は声区から声区に移る時に、いかにスムーズに、はっきり変わり目が分からないように切り替えが出来るかです。
これが出来るようになると、音楽的な歌唱力はずっと広がってきます。

声の変わり目の高さは個人差があって、どこの高さから裏声になる、と断定することはできません。人によって広い範囲で裏声の人もいるし、裏声の出せない人もいます。

訓練としては、発声練習で、「ドレドレド」 の音階で半音ずつ上げたり下げたりして発声する1音ずつの変化をなめらかにしていくことが、声区の切れ目を自然に目出たせなくしていくことにつながります。

また、「ア」 を発声するとき、だんだん高くなっていっても同じ口の開き方で 「ア」 と発声していては、声が割れてしまいます。そこで 「オ」 音に近い 「ア」 で発声すると割れずにすむといった、母音の変化を利用した工夫のしかたもあります。

本当のオンチはめったにいない
本質的な 「オンチ」 の人は、ほとんどいないといっていいでしょう。
大脳中枢の音楽中枢が発育不全であったり、破壊されているための本質的な 「オンチ」 は、何万人に1人しかいないといわれます。
この人たちは音楽中枢をやられているので、直すのは困難です。

ところが一般に 「オンチ」 といわれている人たちの 「オンチ」 は、直すことのできる 「オンチ」 です。

「オンチ」 になってしまった原因を調べてみると、子どものころ、子どもの声域をはみ出して無理に歌わされたために、音程をはずして発声している人。
あるいは、声がかすれ声になったり、声変わりの時期で声がひっくり返ったりしているときに歌わされていたために、正しい歌い方が出来にくくなった人もいます。

いわゆる 「オンチ」 といわれるなかには、テンポ、リズムは良くて音程だけがダメな 「音程オンチ」。テンポだけがうまくいかない 「テンポオンチ」。あるいは 「リズムオンチ」 などいろいろな種類があります。

これらを直す場合、必ずしも歌の先生に教えてもらわなくても、本物の歌手の歌と自分の歌を比べながら、直していけばよいのです。
本質的な 「オンチ」 でなければ、自分の音程やリズムがおかしいことに気づくはずです。

要するに勇気を持つことです。
あるアメリカの石油成金の奥さんは、立派な 「オンチ」 でありながらカーネギーホールを借りて堂々と歌っています。
いくら金の力とはいえレコードまで出している強心臓ぶり。堂々と歌っているところが、滑稽と感じるよりも、強心臓がうらやましいと感じるなら、あなたも彼女の勇気を見習ってみませんか。
参考文献
“ヴォイス博士”の方法
1日5分で歌と声に自信がつく!
声がよくなる本 医学博士 米山文明 著
主婦と生活社