イラストで読む ファンタジーのプロット
アニメやゲームで、ファンタジーの世界は とても人気があります。
ファンタジー 【魔法昔話】 の分類として 世界でもっとも広く用いられているのは、アンティ・アールネ (フィンランドの民俗学者 1867〜1925年) によって作られ、アメリカの民俗学者 スティス・トムソン によって、1928年 および 1961年に増補改訂された 『昔話の型』 と、ロシアの民俗学者 ウラジミール・プロップ (1895〜1970年) による 『昔話の形態学』 です。
プロット(ストーリーの設計図)を知ることで、アニメやゲームにおける役作りなどに、ぜひお役立てください。
魔法昔話の構造
  1. 王が勇者に鷲をあたえる。鷲は勇者を他国へ連れていく。
  2. 老人がスーチェンコに馬をあたえる。馬はスーチェンコを他国へ連れていく。
  3. 呪術師がイヴァンに小舟をあたえる。小舟はイヴァンを他国へ連れていく。
  4. 王女がイヴァンに指輪をあたえる。指輪の中から現れた若者たちがイヴァンを他国へ連れていく。

それぞれの話の前半は、次のように整理することができます。
王が 老人が 呪術師が 王女が
勇者に スーチェンコに イヴァンに イヴァンに
鷲を 馬を 小舟を 指輪を
あたえる。 あたえる。 あたえる。 あたえる。

同様に後半は、次のようになります。
鷲は 馬は 小舟は 指輪から現れた若者たちが
勇者を スーチェンコを イヴァンを イヴァンを
他国へ連れていく。 他国へ連れていく。 他国へ連れていく。 他国へ連れていく。

これを見れば分かるように、話ごとに変わっている部分と 変化していない部分とがあります。

このように昔話は、しばしば相違なる人物たちに同一の行為を行わせるのです。
この行為をプロップは、「機能」と呼びました。
31の機能

プロップによれば、魔法昔話に見られる機能の数は 31 しかありません。
基本的なものは次のようになります。
1.留守
家族の成員のひとりが家を留守にする。たとえば両親が仕事に出かける。両親の死も この機能に属する。
2.禁止
主人公に禁を課す。「この部屋をのぞいてはいけない」とか、「外に出てはいけない」といった禁止命令。
3.違反
禁が破られる。

2と 3は 対をなしています。
ここで新たに、主人公に敵対する者 (悪魔、魔女、ヘビ、盗賊など) が登場します。
4.探り出し
敵対者が探り出そうとする。敵対者が、貴重なものなどのありかを探ろうとする。
5.情報漏洩
犠牲者に関する情報が敵対者に伝わる。

この 4と5 は対になっています。
6.謀略
敵対者は、犠牲とする者やその持ち物を手に入れようとして、犠牲となる者を騙そうとする。敵対者はまず姿を変えて、何かを勧めたり、呪具を用いたりする。
7.幇助
犠牲となる者は欺かれ、そのことによって心ならずも敵対者を助ける。
8.加害
敵対者が、家族の成員のひとりに害を加えるなり損傷をあたえるなりする。
あるいは【欠如】。家族の成員のひとりに何かが欠けている。その者がその何かを手に入れたいと思う。

厳密にいえば、「8」の機能によってはじめて昔話の動きが始まります。
つまり、1〜7は、この「8.加害」の機能の下準備なのです。
9.仲介・つなぎの段階
被害なり欠如なりが主人公に知らされ、主人公に頼むなり命令するなりして、主人公を派遣したり出立を許したりする。

この機能によって、話のうちに主人公が導入されます。
10.対抗開始
探索者型の主人公が、対抗する行動に出ることに同意するか、対抗行動に出ることを決意する。
11.出立
主人公が家を後にする。

ここで新たに、贈与者が登場します。主人公はこの人物に、森の中や路上で偶然に出会います。
12.贈与者の第一機能
主人公が贈与者によって試され、訊ねられ、攻撃されたりする。そのことによって、主人公が呪具なり助手なりを手に入れる下準備がなされる。
13.主人公の反応
主人公が、贈与者になるはずの者の働きかけに反応する。
14.呪具の贈与・獲得
呪具あるいは助手が主人公の手に入る。
15.二つの国の間の空間移動
主人公は、探し求める対象のある場所へ、連れていかれる、送りとどけられる、案内される。
16.闘い
主人公と敵対者とが直接 闘う。
17.標づけ
主人公に標がつけられる。
18.勝利
敵対者が敗北する。
19.不幸・欠如の解消
発端の不幸・災いか、発端の欠如が解消される。
20.帰還
主人公が帰路につく。
21.追跡
主人公が追跡される。
22.救助
主人公は追跡から救われる。
23.気づかれざる到着
主人公がそれと気づかれずに、家郷か他国かに到着する。
24.不当な要求
ニセ主人公が不当な要求をする。
25.難題
主人公に難題が課される。
26.解決
難題を解消する。
27.発見・認知
主人公が発見・認知される。
28.正体露見
ニセ主人公、あるいは敵対者(加害者)の正体が露見する。
29.変身
主人公に新たな姿形があたえられる。
30.処罰
敵対者が罰せられる。
31.結婚
主人公は結婚するし、即位する。

もちろん、どの話にもこれら31の機能がすべて含まれているというわけではありません。

また、すべての機能が同等の重要性を持つわけでもありません。もっとも肝要な機能は、8 の「加害」と「欠如」です。先にも述べたように、この機能があってはじめて真の意味でのストーリーが始まるのです。
言い換えると、魔法昔話というのは、なんらかの被害を受けたり、虐(しいた)げられた者が、最終的に幸福になるか、あるいは主人公が何か欠けているものを探し求めて、最後にはそれを発見するか、どちらかの話なのですね。

それでは、また!

参考文献
グリム童話 メルヘンの深層 【講談社現代新書】