- 魔法昔話の構造
- 王が勇者に鷲をあたえる。鷲は勇者を他国へ連れていく。
- 老人がスーチェンコに馬をあたえる。馬はスーチェンコを他国へ連れていく。
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呪術師がイヴァンに小舟をあたえる。小舟はイヴァンを他国へ連れていく。
- 王女がイヴァンに指輪をあたえる。指輪の中から現れた若者たちがイヴァンを他国へ連れていく。
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それぞれの話の前半は、次のように整理することができます。
王が |
老人が |
呪術師が |
王女が |
勇者に |
スーチェンコに |
イヴァンに |
イヴァンに |
鷲を |
馬を |
小舟を |
指輪を |
あたえる。 |
あたえる。 |
あたえる。 |
あたえる。 |

同様に後半は、次のようになります。
鷲は |
馬は |
小舟は |
指輪から現れた若者たちが |
勇者を |
スーチェンコを |
イヴァンを |
イヴァンを |
他国へ連れていく。 |
他国へ連れていく。 |
他国へ連れていく。 |
他国へ連れていく。 |
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これを見れば分かるように、話ごとに変わっている部分と 変化していない部分とがあります。

このように昔話は、しばしば相違なる人物たちに同一の行為を行わせるのです。
この行為をプロップは、「機能」と呼びました。 |
31の機能

プロップによれば、魔法昔話に見られる機能の数は 31 しかありません。
基本的なものは次のようになります。 |
- 1.留守
- 家族の成員のひとりが家を留守にする。たとえば両親が仕事に出かける。両親の死も
この機能に属する。
- 2.禁止
- 主人公に禁を課す。「この部屋をのぞいてはいけない」とか、「外に出てはいけない」といった禁止命令。
- 3.違反
- 禁が破られる。
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2と 3は 対をなしています。
ここで新たに、主人公に敵対する者 (悪魔、魔女、ヘビ、盗賊など) が登場します。 |
- 4.探り出し
- 敵対者が探り出そうとする。敵対者が、貴重なものなどのありかを探ろうとする。
- 5.情報漏洩
- 犠牲者に関する情報が敵対者に伝わる。
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この 4と5 は対になっています。 |
- 6.謀略
- 敵対者は、犠牲とする者やその持ち物を手に入れようとして、犠牲となる者を騙そうとする。敵対者はまず姿を変えて、何かを勧めたり、呪具を用いたりする。
- 7.幇助
- 犠牲となる者は欺かれ、そのことによって心ならずも敵対者を助ける。
- 8.加害
- 敵対者が、家族の成員のひとりに害を加えるなり損傷をあたえるなりする。
- あるいは【欠如】。家族の成員のひとりに何かが欠けている。その者がその何かを手に入れたいと思う。
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厳密にいえば、「8」の機能によってはじめて昔話の動きが始まります。
つまり、1〜7は、この「8.加害」の機能の下準備なのです。 |
- 9.仲介・つなぎの段階
- 被害なり欠如なりが主人公に知らされ、主人公に頼むなり命令するなりして、主人公を派遣したり出立を許したりする。
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この機能によって、話のうちに主人公が導入されます。 |
- 10.対抗開始
- 探索者型の主人公が、対抗する行動に出ることに同意するか、対抗行動に出ることを決意する。
- 11.出立
- 主人公が家を後にする。
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ここで新たに、贈与者が登場します。主人公はこの人物に、森の中や路上で偶然に出会います。 |
- 12.贈与者の第一機能
- 主人公が贈与者によって試され、訊ねられ、攻撃されたりする。そのことによって、主人公が呪具なり助手なりを手に入れる下準備がなされる。
- 13.主人公の反応
- 主人公が、贈与者になるはずの者の働きかけに反応する。
- 14.呪具の贈与・獲得
- 呪具あるいは助手が主人公の手に入る。
- 15.二つの国の間の空間移動
- 主人公は、探し求める対象のある場所へ、連れていかれる、送りとどけられる、案内される。
- 16.闘い
- 主人公と敵対者とが直接 闘う。
- 17.標づけ
- 主人公に標がつけられる。
- 18.勝利
- 敵対者が敗北する。
- 19.不幸・欠如の解消
- 発端の不幸・災いか、発端の欠如が解消される。
- 20.帰還
- 主人公が帰路につく。
- 21.追跡
- 主人公が追跡される。
- 22.救助
- 主人公は追跡から救われる。
- 23.気づかれざる到着
- 主人公がそれと気づかれずに、家郷か他国かに到着する。
- 24.不当な要求
- ニセ主人公が不当な要求をする。
- 25.難題
- 主人公に難題が課される。
- 26.解決
- 難題を解消する。
- 27.発見・認知
- 主人公が発見・認知される。
- 28.正体露見
- ニセ主人公、あるいは敵対者(加害者)の正体が露見する。
- 29.変身
- 主人公に新たな姿形があたえられる。
- 30.処罰
- 敵対者が罰せられる。
- 31.結婚
- 主人公は結婚するし、即位する。
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もちろん、どの話にもこれら31の機能がすべて含まれているというわけではありません。

また、すべての機能が同等の重要性を持つわけでもありません。もっとも肝要な機能は、8
の「加害」と「欠如」です。先にも述べたように、この機能があってはじめて真の意味でのストーリーが始まるのです。
言い換えると、魔法昔話というのは、なんらかの被害を受けたり、虐(しいた)げられた者が、最終的に幸福になるか、あるいは主人公が何か欠けているものを探し求めて、最後にはそれを発見するか、どちらかの話なのですね。

それでは、また!
参考文献
グリム童話 メルヘンの深層 【講談社現代新書】 |

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